千葉県 I様宅|家じまい、解体を前にした、築約50年の家


千葉県|家じまい、解体を前にした、築約50年の家
成田空港の新しい滑走路の建設に伴い、家じまいし、取り壊されることになった一軒の家を訪ねました。
田んぼと山に囲まれた、千葉県のとある町。
建物は築およそ50年ですが、この土地で続いてきた家族の歴史は、江戸時代の終わり頃までさかのぼるといいます。
昔は茅葺き屋根で、風呂も便所も家の外。冬の夜は寒く、子どもの頃は外の便所に行くのが怖かったそうです。
まだ農業が機械化される前は、牛と一緒に田んぼを耕していた時代もありました。
今の家に建て替える際には、自分たちの山から木を切り出し、大工の手で柱や梁にしたのだとか。
そんな話を聞きながら家の中を歩くと、太い梁も、長い縁側も、少し違って見えてきます。

離れの二階に残されていた、若い日の記憶。
今は使われなくなった二階の部屋。
そこには、黒帯の柔道着、茶道の看板、そして懐かしいカセットテープが残されていました。
どんな稽古を重ね、どんな音楽を聴き、どんな時間を過ごしていたのでしょう。
新しい住まいには持っていかないという品々。
けれど、それらは確かに、ここで暮らした人の人生の一部でした。
庭には大きな柿の木。小屋には、そこで生まれた黒猫の親子。
家の内にも外にも、長い年月の中で積み重なってきた暮らしの痕跡がありました。

家を手放すということ。
この家で生まれた方は、18歳で故郷を離れ、東京や横浜で長く暮らした後、3年ほど前に戻ってきたそうです。
そして今回、空港の新滑走路建設を機に移転を選びました。
家も小屋も取り壊し、土地は更地になる予定です。
長い歴史のある家を手放すこと。それは寂しさだけではなく、これからの暮らしを考えた一つの決断でもあります。
家を残すことはできなくても、そこで過ごした時間を残すことはできる。
柱の傷、使い込まれた道具、二階に置かれた思い出の品々。何気なく見過ごしてしまいそうなものにも、その家でしか生まれなかった物語があります。
今回の撮影では、建物の姿だけでなく、家の方から伺った話や、暮らしの痕跡を一つひとつ写真に収めました。
いつかこの写真を開いたとき、家の匂いや、季節の音、そこで過ごした日々が、ふとよみがえるかもしれません。
家には、記録されていない記憶がある。
その記憶を、未来へ手渡すために。

家録(いえろく)|家の記憶を、写真と言葉で残す。

